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草原の椅子(下) [活字中毒のトモ]


草原の椅子〈下〉 (新潮文庫)

草原の椅子〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/12
  • メディア: 文庫


主人公の遠間憲太郎は、忙しい中苦労してスケジュールを組み、
親友の富樫と、憧れの君である篠原貴志子さんを誘って
タクラマカン砂漠 & フンザへの旅に出かけます。
そこで 3 人は雄大な自然に圧倒され、
それぞれが、今までの自分の考え方を改めることになります。

本書の端々で
「人として正しい道は何か」ということを考えたり
日本と言う国への失望感を訴えているのが目立ちます。
たかがフンザへ行くだけやないの、何をそんなに熱くなって・・・?
と思ったんですが
このお話は、宮本さんが阪神淡路大震災を経験してからわずか 2 年後に
毎日新聞社で掲載されていた新聞小説だったと言うことが判明しました。
なるほど、今まで貯めてきた財産や価値観を地震で根こそぎ失った後なら
こういう小説を書きたいと思うのも、うなずけます。

離婚してシングルとなった 50 歳のおじさんが
見ず知らずの 5 歳の男の子を、責任持って育てていこうとするところなど
普通に考えたらありえないというか、
そんなことするおっさんがどこにおんねん?と思うのですが
地震の後で命だけ助かって、さあこれから、という時だったら
ひょっとしたら、そういうこともあるかもしれないな、と思いました。
被災した私が当時を思い返してみても、
人情あふれる親切な人が多かったですから。

本書を読んで、
地震当時、ほんの一瞬だけ
お金のことも、将来のことも、心配する暇がなくて
その瞬間を生きることだけ考えていた、
ある意味幸せな時間があったのを思い出しました。
(あくまでも、「ある意味」ですよ。
実際はものすごく大変ですし、悲しい思い出も多いです)
憲太郎は、フンザへの旅を通してそんな生き方を思い出し、
その記憶を身体に刻み込んだのではと思います。
だからこそ、「使命」をあっさり受け入れる気になったのではないかと。

彼の「使命」に比べれば、私の使命なんてさして大きくはないのですが
現実に受け入れるとなると・・・心の準備が難しいものです。
小説だから、と言ってしまえばそれまでですが
私も心の余裕を持たなくては、と思える小説でした。




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