妻と私・幼年時代 [活字中毒のトモ]
*読み応え: 70 点
*コストパフォーマンス: 70 点
「妻と私」は、作家の江藤淳さんが、
奥様の闘病から死までを振り返って記された文章です。
「幼年時代」は、江藤淳さんがご自身の幼い頃を振り返りながら
幼くして死に別れた実母を追憶している文章です。
この文章は、どうやら未完だったらしく、
文章の最後に<絶筆>と記されています。
この 2 つのお話を読んでまず感じたのが
江藤さんの芯の弱さです。
なんて脆い、なんて儚げな人なんだろうと思いました。
この人はおそらく、自分を心から愛してくれる人がいなければ
生きていけない人なのです。
だから、還暦を越えたじいさんになっても
亡き母の手紙など読み返して、自分がいかに愛された子どもであったかを
再確認したりする。
妻が亡くなれば、自分も重い感染症にかかって入院を余儀なくされる。
他人の私の目で見れば、なんて面倒な人であることか。
奥様は、彼を残して死ななくてはならなかったので、
さぞ心配だったことでしょう。
人間の性格は、人それぞれ違いますから、
同じ経験をしても、それを乗り越えられる人と、そうでない人がいます。
江藤氏の場合は、明らかに、
小さい頃にお母様を亡くされたことと、
年老いてから奥様を亡くされたことが
乗り越えられない深い悲しみとなって、心に残ってしまったようです。
なんだか、「妻と私」を読んでいると
このお話そのものが、江藤さんの遺書に思えて仕方ないのです。
奥様の闘病の様子を思い返しながら、ご自身が死に支度を進めていらっしゃる。
そんな感じの手記です。
江藤さんが亡くなられて、そろそろ 10 年経つようです。
改めて、ご冥福をお祈りいたします。
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